田中の仕事は環境装飾。商業施設やイベント会場等のスペースを花や緑で空間演出する仕事だ。クライアントからの要求は多種多様。実現困難と思える案件もたくさんあった。しかし、どんな時も田中は「どないかせなあかん。」と、持ち前の責任感とプライドで、要求以上のクオリティで応える。
ある百貨店の催事会場。「しだれ桜の庭園をつくってほしい」という依頼があった。
「開催期間は3日間。最終日に満開でないのは論外、期間中通して、花びら1枚落ちるか落ちないか、ギリギリの満開状態を保て」という厳しい条件付きだ。桜の花はデリケートで開花期間が短い。満開にさせるタイミングは催事が始まる直前。これが田中の「読み」だった。少しでもずれると「3日間、満開状態を保つ」というクライアントの要求は満たせない。ポイントはひとつ、「開花調整」。田中はすぐに仕入れの段取りを進める。
しだれ桜の発注先は、生け花の家元も御用達の一流店。詳細に状況を伝え、綿密な打合せをした。それから数週間後、納品2日前のこと。「絶対に大丈夫」と折り紙付きで差し出された桜を入念にチェック、自身の目で確かめた田中は直感した。「早すぎる。このつぼみの柔らかさでは、期間中に散ってしまう。」会場の空調や人の熱気等の微妙な影響まで計算された、それは現場を知る田中にしかはじき出せない答えだった。田中はすぐに、少しつぼみの固い桜を再発注した。結果、催事は3日間通して満開のまま幕を閉じた。
大型ショッピングセンターのクリスマス。以前、実寸大のロケットオブジェが設置されていたスペース。大きな入口もなく、クレーンも使えない。人海戦術で運び込むしか方法はないという状況で、高さ8m、重量1トンを超えるクリスマスツリーを設置するというミッション。設置当日、ツリーの角度や向きを変えながら、どこにもぶつけることなく、吹き抜けになっている階上から難なく搬入。現場に何度も通い、搬入経路、手順、動員するスタッフ数、必要となる道具の一つひとつを正確に、そして緻密に計算した田中の勝利である。
「だいたい勘ですわぁ」照れながら言う田中の的確な読みの奥には、長年、培ってきた数えきれない経験による裏づけがある。
田中に言わせると、「開花調整も、難しい搬入も、作業を始める前にはもうすでに終わったようなもん。仕事の9割は段取りですわ。」今日も社内に「田中節」が響く。
